第6回「デジピータ ⇔ デジピータ:多段リンクの仕組み」
前回の 第5回「RF ⇔ HotSpot ⇔ XLXリフレクタ:もうひとつの世界」では、方式の壁を越えてつながれるXLXリフレクタの魅力をご紹介しました。
今回は少し視点を変えて、デジピータ同士を直接つなぐ という、運用者側の話題を取り上げます。「デジピータ ⇔ デジピータ」 ――いわゆる 多段リンク の仕組みです。
ここでご紹介する多段リンクは、インターネットを一切使いません。電波(RF)だけで、2つのデジピータをつなぐ、純粋な無線中継の技術です。
SFR(シングルフリークエンシーリピーター)とは?
DMRデジピータは、SFR(Single Frequency Repeater:単一周波数中継) という機能を使って動作します。まずこの仕組みを理解することが、多段リンクを知るための第一歩です。
通常のアナログ中継器は、受信周波数と送信周波数が異なります(デュプレクサが必要)。それに対してSFRは、同一周波数でありながら、DMRのTS1とTS2を交互に使い分けることで受信と送信を実現します。 時間軸 → TS1(受信) TS2(送信) TS1(受信) TS2(送信) TS1(受信) ≈30ms TS1:アクセス局からの電波を受信 TS2:受信した音声を同一周波数で再送信(約30ms後) 📌 受信も送信も同一周波数 デュプレクサ不要、1本のアンテナでOK ↑ 同じ周波数(例:438.71 MHz)で受信・送信を交互に繰り返す
図6-1:SFR(シングルフリークエンシーリピーター)の動作原理。TS1で受信し、約30ms後にTS2で再送信する。受信と送信は同一周波数。
💡 SFRのポイント
TS1とTS2の切り替え間隔は約30msです。これはDMRのTDMAフレーム構造に基づくもので、実用上は遅延を意識することなく通話できます。アクセスする無線機はこのTS1/TS2の切り替えを自動的に処理し、ユーザーはチャンネルを選ぶだけで使えます。
パターン6:デジピータ ⇔ デジピータ(SFR多段リンク)とは?
SFRのデジピータを2台、お互いの電波が届く場所にそれぞれ設置し、同一チャンネルに設定すると、自動的に2段中継が成立します。これが「多段リンク」です。
インターネットもTGIFも、XLXリフレクタも関係ありません。すべて電波(RF)だけで完結します。 デジピータA (例:JJ2YYK) 438.71 MHz SFR機能 ON 尾張旭市 アンテナ デジピータB (例:JJ2ZAR) 438.71 MHz SFR機能 ON 多治見市 アンテナ ① TS2で再送信(A→B方向) ② TS2で再送信(B→A方向) 🚫 インターネット不使用 📻 アクセス局(局A圏内) TS1で送信 → Aがキャッチ 📻 アクセス局(局B圏内) 局Bが受信・再中継

図6-2:SFRによるデジピータ間多段リンク。電波のみで成立し、インターネットを一切使わない。
多段リンクの動作の流れ
例えば局AエリアのハンディからPTTを押した場合、信号は次のように伝わります。
| ステップ | 動作 | タイムスロット |
|---|---|---|
| ① | ハンディ機がデジピータAに向けてTS1で送信 | TS1 |
| ② | デジピータAがTS1で受信し、約30ms後にTS2で同一周波数に再送信 | TS1→TS2 |
| ③ | デジピータBがその電波をTS2で受信し、TS1で再送信(逆スロット変換) | TS2→TS1 |
| ④ | 局Bエリアのハンディ機がTS1で受信し、音声として再生 | TS1 |
⚠️ ループ対策について
2台のSFR機が互いに電波を拾い続けると、理論上はループ(ハウリングのような無限中継)が起こるはずです。しかし実際には、DMR IDによる識別によって同一信号の再送信がブロックされ、ループが防がれると考えられています。この動作の詳細はメーカーも公式には説明していませんが、国内のアマチュア無線家による実験で実際に動作することが確認されています。
SFR多段リンクならではの特徴
従来のMMDVMレピータとの違い
JJ2YYKのようなMMDVMを使ったレピータはインターネット(TGIF / XLX等)に接続して動作します。一方でSFRデジピータは無線機そのものにリピータ機能を内蔵しており、ネットワークとは切り離された独立した存在です。
| 項目 | MMDVM(ホットスポット/レピータ) | SFR デジピータ |
|---|---|---|
| インターネット | 必要(TGIF・XLX等に接続) | 不要(電波のみ) |
| ハードウェア | Pi-Star等のLinuxボード+RFモジュール | SFR対応DMR無線機1台 |
| デュプレクサ | 2波使用の場合に必要 | 不要(1波で完結) |
| トークグループ | TG1, TG440等を選択 | 設定不要(チャンネルに入るだけ) |
| 到達範囲 | 世界中(ネット経由) | RF到達圏内のみ |
SFR多段リンクのメリット
- インターネット障害・停電でも運用継続できる(非常通信に有利)
- デュプレクサ不要で設備が小型・シンプル・低コスト
- ユーザーはチャンネルを選ぶだけで使える(TG選択不要)
- エリアを拡大しながらも独立した「ローカル」を維持できる
- 設営・移動が容易なため、イベントや臨時中継にも向く
SFR多段リンクの注意点
- 2台のSFR機はお互いの電波が届く位置に設置する必要がある(設置場所の選定が重要)
TS1とTS2を両方使うため、同一チャンネルでの同時2通話はできない- 意図しない多段リンクが発生しないよう、近隣SFR局との事前調整が必須
- メーカーは同一周波数での多段リンクを公式には推奨・保証していない
- 3段・4段リンクは理論的に困難(通常は2段リンクが上限)
⚠️ 近隣局との事前調整を必ず行ってください
同一チャンネルや近隣チャンネルでSFRを運用すると、意図せずループや予期しない多段リンクが発生する場合があります。開局・試験運用の前には、必ず近隣デジピータの管理者と十分な調整を行ってください。(全国DMRデジピーター連絡協議会のガイドラインより)
こんな場面で活きてきます
SFR多段リンクは特に次のような場面でその強みを発揮します。
- 山間部など地形で電波が届きにくいエリアへの中継補完
- インターネット回線のない山頂や離島での臨時レピータ設営
- 地域防災・非常通信訓練(インフラ不要で動作するため)
- フィールドデーや移動運用イベントでの広域カバー
- 既存デジピータのカバーエリア拡張(中間に追加設置)
電波だけでつながる、アナログ時代の知恵をデジタルで
中継器を重ねてエリアを広げるという発想は、アナログ時代から変わりません。SFRはその考え方をDMRのTDMA技術によってデジタルの世界で実現したものです。インターネットの恩恵に頼らず、電波と無線機だけで広域をカバーする――これは現代のアマチュア無線家ならではの楽しみです。
JJ2YYKは現在MMDVMベースのネットワーク接続型レピータとして運用していますが、SFR多段リンクの技術についても研究・情報収集を続けています。将来的に実験運用の機会があれば、当ブログでご報告します。
📚 次回予告
第7回は、シリーズの最終パターン 「PC/スマホ ⇔ ネットワーク:無線機なしでも参加できる」 のお話です。DVSwitchやDroidstarといったソフトウェアを使えば、無線機を持っていなくてもDMRネットワークに参加できます。新しいDMRの楽しみ方をご紹介します。
— あいちデジタル通信ハムクラブ JJ2YYK
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第7回「PC/スマホ ⇔ ネットワーク:無線機なしでも参加できる」 | JJ2YYK 尾張旭DMRデジピーター