📡 スプリアス測定の仕方
〜あなたの無線機は大丈夫?〜
🗓 2026 年 6 月改訂版|✍ 著:JJ2YYK
スプリアスとは
スプリアス(Spurious emissions)とは、無線機が本来送信するべき周波数以外に、意図せず出してしまう電波のことです。これらの不要な信号が強すぎると、他局への混信・妨害の原因になります。そのため、電波法ではスプリアスの強さに厳しい基準が設けられています。
📝 用語ミニ解説
dBm=電力の絶対値(0 dBm=1 mW)dBc=搬送波(キャリア)を基準にした相対値dB=単なる比(差)
本記事の「減衰値(dBc)」は、搬送波からどれだけ低いかを表します。

測定が必要になる場面
- 技適マークがない無線機を使う場合
- 改造や増幅器の追加などを行った場合
- JARD や TSS にスプリアス確認保証を申請するとき
- 新スプリアス規格に対応しているか確認したいとき(旧規格機は保証を受けて使用する経過措置あり)
- 自主的に機器の健全性を確かめたいとき
📝 新スプリアス規格について
2005 年(平成 17 年)の無線設備規則改正で、より厳しい「新スプリアス規格」へ移行しました。旧規格機については、JARD・TSS のスプリアス確認保証などの手続きを経て使用を継続できる経過措置が設けられています。手続きの要否・期限は、最新の総務省・JARD の情報を確認してください。
前提条件(測定環境)
本記事の測定例は、次の環境・機材を前提としています。
| 機材 | 用途 |
|---|---|
| スペクトラムアナライザ | 電波の強さと周波数を可視化 |
| 減衰器(アッテネーター) | スペアナを過電圧から保護し、歪みを抑える |
| ダミーロード | 電波の飛び出しを防ぐ安全装置 |
| ローパスフィルター(必要に応じて) | 高調波除去 |
| 無線機 | 測定対象(例:430 MHz 帯 5 W 送信機) |
JARD 実測例の測定機器は Agilent E4440A、校正はテレコムエンジニアリングセンターによるものです。
手軽に始める:TinySA という選択肢
業務用のスペクトラムアナライザは数十万円〜数百万円と高価で、個人で用意するのは大変です。そこで近年人気なのが、TinySA(タイニーエスエー)という安価な小型スペクトラムアナライザです。手のひらサイズで、アマチュア無線のスプリアス確認の入口として十分に役立ちます。
TinySA と TinySA Ultra の違い
TinySA には無印(初代)と上位機種の TinySA Ultra があります。VHF・UHF 帯(145 MHz / 430 MHz)と、その高調波まで見たい場合は、測定範囲の広い TinySA Ultra がおすすめです。
📝 TinySA Ultra が VHF・UHF 向きな理由
UHF の 430 MHz 帯では、第 2 高調波が 860 MHz、第 3 高調波が 1290 MHz 付近に出ます。高い周波数まで測れる機種でないと、肝心の高調波を見逃してしまいます。広い測定範囲を持つ TinySA Ultra なら、これらの高調波もカバーできます。
❓ 機種ごとの仕様は必ず公式情報で確認を
測定範囲・最大入力・分解能などの細かい仕様は、ファームウェアのバージョンや機種(無印 / Ultra)によって異なります。最新かつ正確な数値は、TinySA の公式 Wiki(tinysa.org)でご確認ください。本記事では、機種に依存しない一般的な使い方を中心に解説します。
TinySA を使うときの注意点
⚠️ TinySA を壊さないために
- TinySA の入力に、送信機の電力を直接つないでは絶対にいけません。一瞬で壊れます
- 必ず外部の減衰器(ATT)とダミーロードを経由させ、TinySA への入力を安全なレベル(おおむね
+10 dBm以下)まで落とします - 5 W(約
37 dBm)の送信機なら、40 dB程度の外部 ATT を入れて、さらに余裕をみるのが安心です - TinySA には内蔵の減衰器(アッテネーター)もあります。外部 ATT と併用して使います
接続のイメージは次のとおりです。送信機の出力を、まず減衰器とダミーロードに通し、そこから取り出したごく弱い信号だけを TinySA に入れます。
📝 接続の流れ
無線機 → 外部 ATT(+ダミーロード/カプラ) → TinySA
外部 ATT で落とした分(例:40 dB)は、あとで読み値に足し戻して本当の電力に換算します(オフセット補正)。
減衰器(ATT)を入れる理由
1. スペアナの破損を防止する
⚠️ 選び方の目安
スペアナ入力電力が +10 dBm 以下になる減衰器を使ってください。例:100 W 機(50 dBm)− 40 dB = 10 dBm。5 W(約 37 dBm)なら 30 dB 前後が目安です。過大入力はスペアナの破損につながります。
2. スペアナ内部での歪みを防ぐ
過大入力は、スペアナ自身が偽のスプリアスを生む原因になります。次の 2 点を必ず守ってください。
- 外部 ATT で電力を落とす
- 内部 ATT は
30 dB程度に設定する(機種により25 dB等。内部ミキサーの歪み防止)

測定の手順
📝 減衰値(dBc)の求め方
減衰値(dBc)=搬送波電力 − 不要発射の実測値
値が大きいほど(より「−」が大きいほど)搬送波から遠く離れていて良好です。
手順 1:帯域外領域の測定(無変調)
- 無線機を無変調(音声 OFF)で送信する
- 搬送波の近くで漏れ出す不要信号を測定する
- 搬送波電力と不要発射の実測値から減衰値を計算する
測定例(JARD 実測:7.1 MHz / 100 W 機)
- 搬送波電力:
50.58 dBm - 不要発射の実測値:
−14.9 dBm(占有帯域の外側)
→ 減衰値:50.58−(−14.9)≒65.5 dBc
基準(JARD 資料 表 3:〜30 MHz、5 W 超〜50 W):17 dBm 以下かつ −40 dB 以下
✅ 確認:適合
−65.5 dBc は −40 dB 以下を十分に満たしています。
手順 2:スプリアス領域の測定(変調あり)
- 電波型式ごとの変調をかけて送信する(変調条件は後述の表 6 を参照)
- MAX HOLD(PEAK HOLD)で広い帯域に漏れ出す遠方のスプリアスを測定する
- 各不要発射について減衰値を計算する
測定例(JARD 実測:7.1 MHz)
- A1A(CW):
6.55 MHz/−5.6 dBm→ 減衰値 ≒−56.2 dBc - J3E(SSB):
6.56 MHz/−11.4 dBm→ 減衰値 ≒−62.0 dBc
基準(JARD 資料 表 7:〜30 MHz、5 W 超〜50 W):17 dBm 以下かつ −50 dB 以下
✅ 確認:いずれも適合
A1A・J3E とも −50 dB 以下を満たしています。
VHF・UHF 帯の具体的な測定方法(TinySA 編)
ここでは、VHF(145 MHz 帯)と UHF(430 MHz 帯)について、TinySA を使った具体的な手順を解説します。考え方は前述の 2 ステップ(帯域外領域 → スプリアス領域)と同じです。
❓ 数値はあくまで設定の目安です
以下の SPAN・RBW・ATT の値は、一般的な測定の考え方に基づく目安です。お使いの TinySA の機種・ファームウェアで設定できる範囲や、選ぶ ATT の値によって最適値は変わります。実際の測定では、お持ちの機材と公式情報に合わせて調整してください。
VHF:145 MHz 帯(FM)の測定手順
準備
- 無線機の出力を、外部 ATT(例:
40 dB)とダミーロードを経由して TinySA に接続する - TinySA の入力レベルが
+10 dBmを超えないことを必ず確認する - 送信周波数を
145.000 MHzなど測定したいチャンネルに合わせる
手順 1:搬送波電力を測る(基準値)
- 無変調(音声 OFF)で送信する
- TinySA の中心周波数を
145 MHz、SPAN を狭め(例:1 MHz)に設定する - ピーク(山の頂上)の値を読み取る。これが基準になる搬送波電力
- 外部 ATT 分(例:
+40 dB)を足し戻して本当の電力に換算する
手順 2:帯域外領域を測る(無変調)
- 無変調のまま、中心
145 MHz・SPAN を300 kHz前後・RBW を100 Hz程度に設定する - 搬送波のすぐ外側(±
100 kHz付近の外)に出る不要信号のピークを読む - 減衰値(dBc)=搬送波電力 − 実測値 を計算する
手順 3:スプリアス領域を測る(変調あり)
- 擬似音声などで変調をかけて送信する
- SPAN を広げ(例:搬送波から第 2・第 3 高調波を含む範囲)、MAX HOLD で測定する
290 MHz(第 2 高調波)・435 MHz(第 3 高調波)付近に強い信号がないか確認する- 見つかった不要発射について減衰値を計算する
✅ 確認(145 MHz / 5 W の例)
5 W 機(5 W 超〜50 W 区分には該当せず、5 W 以下区分)の帯域外領域の基準は −10 dBm 以下(表 3)。スプリアス領域は −13 dBm 以下(表 7、1 W 超〜5 W)。読み値+外部 ATT で換算した値がこれらを満たしていれば適合です。
UHF:430 MHz 帯(FM)の測定手順
基本の流れは VHF と同じですが、UHF は高調波が高い周波数に出るため、測定範囲の広い TinySA Ultra が向いています。
手順 1:搬送波電力を測る(基準値)
- 外部 ATT・ダミーロード経由で接続し、入力が
+10 dBm以下であることを確認する - 無変調で送信し、中心
433 MHz・SPAN を狭め(例:1 MHz)に設定する - ピーク値を読み、外部 ATT 分を足し戻して搬送波電力とする
手順 2:帯域外領域を測る(無変調)
- 無変調のまま、中心
433 MHz・SPAN を200 kHz前後・RBW を100 Hz程度に設定する(F3E の帯域外は ±100 kHz) - 搬送波のすぐ外側に出る不要信号のピークを読む
- 減衰値(dBc)=搬送波電力 − 実測値 を計算する
手順 3:スプリアス領域・高調波を測る(変調あり)
- 変調をかけて送信する
- 高調波の周波数を狙って測定する:第 2 高調波 ≒
866 MHz、第 3 高調波 ≒1299 MHz - SPAN を広げ、RBW を
100 kHz(30 MHz超〜1 GHz)/1 MHz(1 GHz超)に設定して MAX HOLD で測定する - 各高調波・不要発射の減衰値を計算する
✅ 確認(430 MHz / 5 W の例)
5 W 以下なら帯域外領域は −10 dBm 以下(表 3、50 MHz〜430 MHz)。スプリアス領域は −13 dBm 以下(表 7、1 W 超〜5 W)。換算後の値がこれらを下回っていれば適合です。
📝 高調波(こうちょうは)ってなに?
高調波とは、送信周波数のちょうど整数倍に現れる不要な電波です。430 MHz で送信すると、その 2 倍(860 MHz 付近)や 3 倍(1290 MHz 付近)にも弱い電波が漏れることがあります。スプリアス測定では、この高調波が基準内に収まっているかを確認するのが大切なポイントです。
確認:測定結果まとめ(JARD 実測例:7.1 MHz / 100 W 機)
| 領域 | 電波型式 | 実測値 | 減衰値(dBc) | 規格限度値 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 帯域外 | 無変調 | −14.9 dBm | −65.5 dBc | 17 dBm 以下かつ −40 dB 以下 | 適合 |
| スプリアス | A1A | −5.6 dBm | −56.2 dBc | 17 dBm 以下かつ −50 dB 以下 | 適合 |
| スプリアス | J3E | −11.4 dBm | −62.0 dBc | 17 dBm 以下かつ −50 dB 以下 | 適合 |
判定基準(JARD 表 3・表 7 抜粋)
| 領域 | 出力区分 | 〜30 MHz | 50 MHz〜430 MHz |
|---|---|---|---|
| 帯域外(表 3) | 5 W 以下 | −10 dBm 以下 | −10 dBm 以下 |
| 帯域外(表 3) | 5 W 超〜50 W | 17 dBm 以下かつ −40 dB 以下 | 0 dBm 以下かつ −60 dB 以下 |
| スプリアス(表 7) | 1 W 超〜5 W | −13 dBm 以下 | −13 dBm 以下 |
| スプリアス(表 7) | 5 W 超〜50 W | 17 dBm 以下かつ −50 dB 以下 | −60 dB 以下 |
測定の実例紹介(7 / 144 / 430 MHz)
実際に JARD 保証認定で測定した例を、電波型式と出力ごとに紹介します。いずれも搬送波出力を基準に、帯域外領域とスプリアス領域の減衰値(dBc)を求め、規格を満たしているかを確認しています。
7.1 MHz 機(J3E・SSB・10 W)
| 測定項目 | 測定値 |
|---|---|
| 搬送波出力 | 40.0 dBm(10 W) |
| 帯域外領域 | −14.9 dBm(→ −65.5 dBc) |
| スプリアス領域 | −11.4 dBm(→ −62.0 dBc) |
✅ 確認:合格
帯域外・スプリアス領域とも規格を満たしています。
144 MHz 機(F3E・FM・5 W)
| 測定項目 | 測定値 |
|---|---|
| 搬送波出力 | 37.0 dBm(5 W) |
| 帯域外領域 | −22.5 dBm(→ −59.5 dBc) |
| スプリアス領域 | −18.0 dBm(→ −55.0 dBc) |
✅ 確認:合格
VHF(145 MHz 帯)の 5 W 機の例。帯域外・スプリアス領域とも規格を満たしています。
430 MHz 機(F3E・FM・5 W)
| 測定項目 | 測定値 |
|---|---|
| 搬送波出力 | 37.0 dBm(5 W) |
| 帯域外領域 | −21.0 dBm(→ −58.0 dBc) |
| スプリアス領域 | −17.5 dBm(→ −54.5 dBc) |
✅ 確認:合格
UHF(430 MHz 帯)の 5 W 機の例。帯域外・スプリアス領域とも規格を満たしています。
📝 減衰値の見方
「−14.9 dBm(→ −65.5 dBc)」は、実測値が −14.9 dBm、搬送波からの減衰値が −65.5 dBc という意味です(減衰値 = 搬送波電力 − 実測値)。値が大きいほど不要発射が小さく、良好です。
JARD 資料の参考データ
スプリアス領域の測定周波数範囲(表 4)
| 送信周波数 | 測定周波数範囲 |
|---|---|
| 9 kHz〜100 MHz | 9 kHz〜1 GHz |
| 100 MHz〜300 MHz | 9 kHz〜第 10 次高調波 |
| 300 MHz〜600 MHz | 30 MHz〜3 GHz |
| 600 MHz〜5.2 GHz | 30 MHz〜第 5 次高調波 |
スプリアス領域の RBW 設定(表 5)
| 発見された周波数帯 | RBW |
|---|---|
| 9 kHz〜150 kHz | 1 kHz |
| 150 kHz 超〜30 MHz | 10 kHz |
| 30 MHz 超〜1 GHz | 100 kHz |
| 1 GHz 超 | 1 MHz |
VBW は RBW と同程度に設定します。
主な変調条件(表 6)
- A1A:電鍵操作(外付信号源なら 25 ボー)
- F3E:正弦波 1 kHz で最大周波数偏移の 70% に設定し、擬似音声に切り替えて +10 dB
- J3E:正弦波 1.5 kHz で飽和レベルの 80% に設定し、同レベルの擬似音声に切り替える
- A3E:正弦波 1 kHz で変調度 60%(
−10.5 dBc)に設定し、同レベルの擬似音声に切り替える
測定時の注意点
- 無変調・変調の切り替えを忘れない
- ダミーロードは必須。電波の漏洩は NG
- RBW・VBW・SPAN なども適切に設定する(例:RBW
100 Hz〜100 kHz) - 外部 ATT の減衰量はオフセット補正する(例:
30 dBの ATT 経由なら、読み値に +30 dBして真の電力に戻す) - スペアナのリファレンスレベルを入力に合わせて設定する(過大入力での内部歪みに注意)
- 測定はアンテナ端子(給電点)で行い、ケーブル・コネクターの損失も把握しておく
- 校正済みのスペアナ・測定器を使用する(未校正だと数値が信用できない)
⚠️ ATT 設定と安全について
- ATT 設定を怠ると、測定が不正確になるか機器破損につながります
- ダミーロードの耐電力(W)を超えないようにしてください
- 高周波被曝にも注意してください
参考資料
- 総務省:無線設備規則 第 13 条の 2
- JARD・TSS:スプリアス確認保証ガイドライン
- ARRL:EMC & Measurement Guidebook
- JARD 管理部/保証事業センター「アマチュア無線機の測定 〜スプリアス発射および不要発射〜」(2019/4/25):https://www.jard.or.jp/warranty/kihondata/spurious_measurement_method.pdf
おわりに
スプリアス測定は、他局への配慮、保証認定の準備、そして自分の無線環境の安心のために、とても大切です。自分の無線機が本当に「静かに」送信できているか、この機会にぜひ確認してみましょう。
📝 執筆:JI2TAB(尾張旭DMRデジピーター 管理人)
🏛️ JJ2YYK あいちデジタルコミュニケーションハムクラブ